富士山の火山活動研究
富士山は、1707年宝永噴火後、約300年間噴火の記録がなく、
表面活動は静穏な状態が続いています。過去の火山灰や溶岩などから、
地質学的には平均的な大噴火の間隔が300−500年といわれてい
る活火山です。富士山の地下では、低周波地震と呼ばれる火山に特有
の地震が発生しています。防災科学技術研究所では20年間以上にわ
たって、低周波地震の活動状態を把握し、火山活動との関係や発生メ
カニズムの研究を進めています。
防災科学技術研究所では富士山の火山活動観測のため、1990年から
1998年にかけて富士山に4カ所の地震・傾斜変動観測施設を設置しま
した(右図の赤丸)。観測データは、つくばに常時、テレメータによ
って送られて、処理・解析されています。
富士山では2000年10月から2001年5月にかけて低周波地震の活発
化が観測されました。防災科学技術研究所で行っている傾斜変動観測
には、マグマ上昇を示す異常な変化は捉えられていません。(2001年
7月現在)
富士山の低周波地震
富士山の低周波地震は、マグニチュードが大きくても2クラスの微小
地震です。普通の微小地震は、10〜20Hzの地震波(1秒間に10〜20回
揺れる震動)が地震計で観測されますが、富士山の低周波地震は、1
〜数Hzの地震波が大きく観測されます。右の図に、富士山で起こった
普通の地震と低周波地震の観測波形を比較して示します。
低周波地震の発生場所
富士山の低周波地震は、山頂のやや北東、深さ10〜15kmを中心にして
発生しています。
富士山の低周波地震の活動度
富士山の低周波地震は、数分から十数分にわたって連続的に発生する
傾向があるので、1個1個の地震を識別することが困難な場合があり
ます。防災科学技術研究所では、続発する低周波地震群を1回の活動
として捉え、特定の観測点で観測された最大振幅と震動継続時間を活
動の指標として、記録しています。
下図は、1980年から2000年間の活動状況を、表した図です。
1回の活動が1個の菱形に対応しています。観測された震動の継続時
間を菱形の高さとして、また最大振幅を菱形の幅で表しています。通
常の低周波地震活動では、1回の活動中に数個から十数個の低周波地
震は連続的に発生しています。
最近の低周波地震活動
2000年10月ころから2001年5月にかけて富士山の低周波地震が活発化し
ました。2000年1月から2001年7月1日の低周波地震活動の様子を菱形図
で下に示します。
富士山の低周波地震と火山活動
富士山の低周波地震のように火山の深部、地下10〜50kmくらいの深さで
発生する低周波地震を深部低周波地震と呼んで、火山の火口周辺で発生
する低周波地震と区別しています。深部低周波地震は、富士山以外にも
伊豆大島、岩手山など日本では20地域以上で見つかっています。また
海外でもハワイやアラスカ、北米の火山地域等10地域以上からの報告
があります。多くの深部低周波地震は噴火活動と関係ない時期に発生し
ていますが、深部低周波火山地域の多く発生することと、なかには噴火
活動やマグマの地殻浅部への上昇と時期的に関連して発生した事例もあ
り、地下のマグマの活動に関連して発生していると考えられています。
その発生メカニズムについては、考え方が確立していません。
富士山では、地震波の伝わる速度分布や低周波地震の研究から、地下深
部のマグマ溜まりの近くで低周波地震が発生していると考えられます。
(下図参照)