特別研究 「関東・東海地域における地震活動に関する研究」


[背景(研究の必要性)]

 関東・東海地域の地殻活動観測を通じてこの地域における大地震の発生予測の ため、就中、既に発生予測がなされている東海地震の直前予知を目指して、本プ ロジェクトは昭和53年度に発足した。同地域に微小地震、傾斜、歪、GPSから なる観測網を展開すると同時に、首都圏における深井戸観測や相模湾海底ケーブ ル式地震観測等を採り込みながら関東・東海一円をカバーする地殻活動総合観測 システムを確立した( )。本プロジェクトでは、観測システムから もたらされるデータに基づいて、プレート微細構造の解明、応力状況変化の把握 など、関東・東海地域の地殻構造と活動の理解に関する研究を進め、多くの成果 を挙げるとともに、政府委員会等への報告を介して地震調査研究に多大な貢献を なしてきた。
 東海地震に関連し、1999年から始まったフィリピン海プレート内、推定固着域 付近における微小地震活動の静穏化は、その後、複雑な推移をたどり、現在も目 を離せない事態が進展しつつある。このような状況を踏まえ、本プロジェクトで は東海地域を重点領域としてとらえ、平成12年度を初めとして、ここに地殻変動 総合観測線の整備に着手することとなった。

[計画年度]

 昭和53年度〜(23年目)

[担当者]

・職員: 松村正三(プロジェクトディレクター)、石田瑞穂、井元政二郎、
大久保正、岡田義光、小原一成、木村尚紀、坂田正治、島田誠一、
野口伸一、堀貞喜、松本拓己、山水史夫、山本英二
・客員研究員: 新谷昌人(東京大)、江口孝雄(防衛大)、大見士朗(京都大)、
川崎一朗(富山大)、小林洋二(筑波大)、佐藤春夫(東北大)

[研究課題の構成]

この課題は、以下の4つのテーマにより構成される。

1)関東・東海地殻活動観測網による観測研究

 関東・東海地域に展開された地殻活動観測網から得られたデータに基づいて、 同地域の地殻活動を支配するプレートの構造とその運動についての解析研究、 地震発生様式とその解釈に関する研究を推進する。研究の成果は、同地域に おける将来の地震発生予測へと発展・展開される。


図1a:関東・東海観測網

図1b:地震観測データの変遷(2000年は未処理分を含む) 赤:震源決定数(右目盛),緑:発震機構解決定数(右目盛), 黄:地震波検知数(左目盛)

図2:東海地域の地震活動変化
東海地域の推定固着域付近では,1990年代後半から微小地震活動が変化し始めた。 上左図の震源データを上盤(地殻内)、下盤(フィリピン海プレート内)に分離し、そ れぞれの地震発生回数を見たものが上右図である。上右図では、2000年10月になっ て上下盤の活動が揃って変化、時を同じくして富士山直下の低周波地震が急増した ことが分かる。東海の地震活動と富士山の活動との間に何らかの因果関係のあるこ とが示唆される。

・H12年度の実施内容
(1) 定常活動の分析・・・・・1ヵ月単位による地殻活動の状況と推移の分析と まとめ。
(2) 特別な活動の分析・・・・・2000年中に起きたもっとも大きな事件は、6月下 旬から8月にかけて発生した三宅島噴火に伴う地殻活動である。また、1999年に始 まった東海地域のフィリピン海プレート内の微小地震活動の静穏化が新たな変化、 時期を同じくした富士山直下の低周波地震の急増など、伊豆諸島から東海地域にか けてあった特異な状況の分析と意味づけ、さらには今後の予測に向けた考察を行っ た()。
(3) 構造探査・・・・・地震波トモグラフィー、地震波反射相の解析、発震機構解 解析などによる構造探査。
(4) 活動パタンの解析・・・・・地震クラスタの生成パタン、発展過程の分析、臨 界状況における地震活動変化の検知、新たな統計的手法の開発やそれを駆使した解 析と考察。
(5) 観測成果集の発刊・・・・・本プロジェクトによる観測の集大成として、次の 3資料を発刊した。
  ㈰関東・東海地殻活動観測網の稼動状況
  ㈪関東・東海地域の震源分布
  ㈫関東・東海地域の3次元速度構造
・成果と効果
(1) 成果の発表・・・・・学会、講演会、シンポジウム等で個々の成果を発表し、 関東・東海地域を対象とする地殻活動、構造、地震発生機構、テクトニクスなど 広汎な研究分野における優位性を立証した。特に、東海地域における地殻活動の解 析に関しては、学界のみならず社会一般からの注目を集めた。
(2) 成果の報告・・・・・気象庁、国土地理院、(旧)地質調査所、大学などと 並び、地震調査研究推進本部地震調査委員会、地震対策強化地域(東海地震)判 定会、地震予知連絡会に定期的に報告を行い、関東・東海地域の活動監視、地震 発生予測等の国家的事業の一翼を担う。

2)地殻活動解析システムの開発研究

 観測網と直結させたデータ処理システム「地殻活動解析システム」の開発と運用 を実施する。システムの運用を通して、地震、傾斜、歪等のデータベースの蓄積を 計り、観測研究の基礎を確立する。また、ネットワークを介して気象庁等の外部機 関とのデータ交換を実施するほか、インターネット等を介しての解析情報の一般公 開を推進する。
図3上:2000年の地震観測結果
最大の事件は三宅島の噴火に伴った地震活動である。2000年6月下旬から8月の間 三宅島、神津島、新島にかけてM6級の地震5個を含む活発な地震活動が続いた。
図3下:1週間ごとの地震回数
三宅島噴火に伴う地震活動のデータ処理は現在も継続中である。(図の矢印の期間)

・H12年度の実施内容
(1) 自動処理、及びオペレータによるマニュアル検測処理を実施し、地震、傾斜、 歪の観測データの蓄積を計った(図3)。ただし、 三宅島噴火に伴う地震活動データ処理は、未処理分が残り後年度に持越した。
(2) 昨年度に整備した地震波形表示システム、地震データ、地殻変動データ処理 システムに対して、追加分のプログラム開発を進めた。

・成果と効果
(1) 2000年中に処理した地震データ総数は約49万個、震源決定された地震数は 約19,000個に達する。ただし、三宅島噴火に伴う地震活動の未処理分データの 処理が進めば最終的データ数はさらに増加する。

3)地殻活動観測網の能力維持及び性能向上に関する研究

 観測網の能力維持のため装置の更新等、必要な措置をとるほか、東海地域 等、特に重要な地域を選んで重点的に観測強化を計る。
図4:重点地域における観測強化
平成12年度には龍山村に、地震計、傾斜計、歪み計、GPSからなる総合地殻活動 観測施設を設置した。平成13年度には、同様の施設を寸又峡に建設する。また、 同時に佐久間の横穴トンネルを利用しての試験観測を実施予定。この結果、静岡 県西部を北西ー南東に縦断する2本の観測線が形作られてきた。

・H12年度の実施内容
(1) 東海地域の龍山村に、傾斜計、三成分歪計、GPS、(及び地震計)からなる 新たな地殻変動総合観測施設を建設した。
(2) 伊豆半島東部伊東観測点の装置劣化に対応するため、昨年度製作した更 新装置(傾斜計、3成分歪計を含む)を設置した。
(3) 絶縁不良のため、観測不調に陥っていた群馬県伊勢崎観測点(広域深部観 測施設のひとつ)のケーブル交換、及びセンサー改修を行った。

・成果と効果
(1) 龍山観測点の新設によりヒンジラインを見込む観測線の1本が増強された。 その結果、重点強化地域としてきた東海地域における2本のヒンライン観測線が 形づくられてきた(図4)。
(2) 伊東観測点の更新、伊勢崎観測点の改修をはじめ、新島、神津島ほか、故障 やトラブルに随時対応することによって、所期の観測性能を維持することができ た。

4)GPSによる広域地殻変動の研究

 GPS固定観測データの精度向上のための解析手法を開発し、東海地震及び 西相模湾直下型地震の発生メカニズム解明に必要な研究を実施する。

図5:相模湾西岸域および駿河湾西岸域の国土地理院および防災科学技術研究 所GPS観測点の地殻変位

・H12年度の実施内容
(1) 国土地理院の全国GPS観測網のうち、相模湾西岸域及び駿河湾西岸域の 計56点の観測網と、防災科研観測点の観測データを用いて、GPS固定点連続 観測データの高精度解析手法の開発を行った。
(2) GPS観測データの効率的な定常処理を進めるためのソフトウェアの開発を 進めた。本年度は特に、昨年度から追加した観測点のデータについて、観測に 遅れずに解析を進めていくために、新しい高速の解析用計算機を導入し、観測 環境を整備した。
(3)客員研究官として招へいした徐培亮京大助手とともに、歪場の異常変化を 検出するための新しい手法を開発し、去年に引き続き明治以来の測量データ とGPS観測データに適用した。

・成果と効果
(1) 1996年9月以降の連日データの解析により、この期間の相模湾西岸及び駿 河湾周辺域の広域地殻変動の概要を明らかにした (図5)。
(2) 駿河湾西岸の内陸部の国土地理院観測点の観測データを用いて、東海地 震の発生と関連して注目されている東海地震想定震源域のヒンジライン付近の 地殻変動を明らかにした。
(3) 明治の三角測量と昭和の三辺測量データの比較から、東海地域においては、 静岡市周辺の駿河トラフに平行な地域に異常地殻変動が発生していることを明 らかにした。

[成果の取扱] 

・本プロジェクトによる成果は、関連分野の学会、雑誌等に発表されるほか、地 震調査研究推進本部地震調査委員会、地震対策強化地域(東海地震)判定会、 地震予知連絡会などに定期的に報告される。
・観測データは、気象庁に並行転送され監視業務に供される。
・処理解析を施された観測データ(例えば、震源情報等)は、インターネットを介 して流布され、関連研究者(例えば、原子力施設関連)に利用されるほか、一般 国民からの広範な参照を受け付けている。

関東・東海地域の過去の地震活動データ